「エンターテイメントに使用されるチンパンジー」について

 私たちサンクチュアリ・プロジェクトは、発足以来、一貫してエンターテイメントに使用されるチンパンジーの現状、その将来についての問題点を皆様にお伝えしてきました。
 

これまでの動き
 環境省は、2005年8月にカドリードミニオンのパン君(2001年10月生)、2006年9月に市原ぞうの国のスマイル君(3代目ゴメス、2002年11月生)に対して、種の保存法違反の疑いがあるとして調査をおこないましたが、問題点は改善されていません。その現状に対して、「アジア・アフリカに生きる大型類人猿を支援する集い(SAGA)」が、2006年12月4日付けでチンパンジーのTVバラエティ等における使用に関して、「絶滅の危機に瀕した種であり成長過程にある幼少個体を、過度な擬人化をしたショーなどに利用しないで欲しい」という旨の要望書を関係園館、テレビ局、環境省、動物園水族館協会に提出しました。

 この機会に、私たちサンクチュアリ・プロジェクトの「エンターテイメントに使用されるチンパンジー」についての見解を再度、理解していただければと思います。

 私たちサンクチュアリ・プロジェクトのメンバー数名はチンパンジーショーを実際に行っていた経験者であり、その反省から日本で単独飼育されているチンパンジーのサンクチュアリ実現を目的としています。なぜなら、私たちは、「チンパンジーは私たち人間に近い心を持った存在であり、群れの中で生まれ、育ち、生活することがチンパンジーの基本である」と考えているからです。

サンクチュアリ・プロジェクトでは、以下のような理由でチンパンジーのエンターテイメント使用についての見直しが必要だと感じています。

 種の保存法では、「学術研究又は繁殖の目的その他環境省令で定める目的」以外での、チンパンジーを含む「国際希少野生動植物種」の譲渡を原則禁止しています。
 しかしながら、「繁殖年齢に達していない」「将来の繁殖に影響はない」「慣れた個体であり、その個体の生きがいになっている」という根拠の無い論理の元、チンパンジーのエンターテイメント使用が行われています。
 本来、種の保存法上、飼育目的は繁殖であるべきです。チンパンジーは血統管理が緊急課題の種であり、繁殖年齢に達していなくても繁殖に向けた群れ作りを優先すべきです。人工哺育等で人馴れした個体であるのなら、逆に一層、早期に群れに入れるように工夫、努力していくべきなのです。また、幼少期のチンパンジーにとって、人だけではなく同じチンパンジーの仲間と生活することが、長い一生を考えるなら本当の幸福なのではないでしょうか。

@大事な幼少期(将来への影響)
一般的に、動物ショーやテレビ、イベントなどに使われるチンパンジーの多くは2才から6才です。ヒトに良く慣れるように、幼児期に母親から離して人工哺育されます。(あるいは、育児放棄され人工哺育された個体も用いられます。)そして、トレーナーとの1対1の絆を築くために多くの場合、ほかのチンパンジーとは隔離されて飼育されます。そして、この間にヒトのように振舞うことを教えられ、服を着せられ、手を振ったり、お辞儀をしたりすることを教えられるのです。この時期は本来チンパンジーにとって、私たちヒトと同じように、お母さんのそばでお母さんから生きていくために必要なこと、仲間と過ごすために必要なことを学んでいく大切な時期です。この時期にチンパンジーのお母さんや仲間と過ごせないということは、チンパンジーとして生きていくための必要なことを身につけることができない、ということになります。

Aエンターテイメント目的の調教の実情
ビジネスとしてエンターテイメントに使用するということは、多かれ少なかれ、トレーナーや経営者、テレビ局の要求をチンパンジーに対して強要することになります。チンパンジーが何をしたいか、したくないかではなく、人側の要求が優先されます。そのために必要となれば物理的、心理的に強硬な手段が用いられることも少なくありません。しかし、ヒトが無理強いして言うことを聞かせることができるのは、ほんの一時期です。10歳に満たないうちにチンパンジーの力はヒトよりも強くなり、ヒトがチンパンジーをコントロールするのは難しくなります。「やりたくないことはやりたくない」という意思もはっきりしてきます。そしてコントロールできなくなったチンパンジーは、ショーを引退しなければなりません。

B引退後のチンパンジー
もし、一度ヒトのように振舞うことを教えられたチンパンジーが、一生ヒトとして一緒に暮らすことができるとしたら、これはそんなに大きな問題ではありません。また、チンパンジーが簡単に仲間を受け入れ、学習しなくてもチンパンジーとして生きていけるのであれば、ショーなどを引退した後でも簡単に仲間と暮らすことができるでしょう。引退後に、運よく群れに入るチャンスを得る個体もいますが、大事な幼少期にチンパンジーと離され、ヒトと多くの時間を過ごした個体は、群れ生活に必要な挨拶やルールを知らず、結果として群れに入れずひとりぼっちで残りの生涯を過ごさなければならなくなる、という悲しい結果となる場合も多いのです。

C間違ったチンパンジー像
「CM、テレビ番組への出演はチンパンジー、動物を知ってもらう機会につながる」という意見もあります。しかし、服を着て、ヒトのように振舞うという極端な擬人化は、チンパンジーの本来の姿(家族の、群れの姿)を大きく歪めて伝えることになります。絶滅危惧種となってしまったチンパンジーの保全活動を進めていくためにも、本来のチンパンジーの姿を伝えていくことが必要です。それがこれからの保全活動を担う世代の育成に役立つことになるでしょう。

以上の理由より、私たちサンクチュアリ・プロジェクトは、チンパンジーをエンターテイメントに使用することに賛成できません。

最後に
 チンパンジーは、ヒトのような振る舞いをさせなくても、十分に魅力的な生き物です。彼らの仲間同士で交わされるやり取りや、仲間関係、親子関係は私たち人間がわざわざ演出しなくても私たちを魅了してくれます。テレビでも、チンパンジーの本来の姿にもっと焦点を当てて欲しいと思います。そしてチンパンジーを飼育している動物園でもチンパンジー本来の姿を見せるような展示、また、群れ飼育の施設が増えていって欲しいと思います。そしてチンパンジーに対する正しい理解が広まることを願います。

                          2007年1月 サンクチュアリ・プロジェクト事務局


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