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ひとりぼっちのチンパンジーたち

日本のチンパンジー

 日本国内には52施設に340(2008年12月 国内血統登録より)のチンパンジーがいます。日本の状況が欧米と異なっている点は、動物園のチンパンジーが一番多いこと、現在ペット所有は無く、エンターテインメントなどの所有もほとんど無い反面、2007年までサンクチュアリが存在しなかったことです。また、チンパンジーに対する近年の意識も欧米では「大型類人猿の権利」について議論されるほどチンパンジーに対する一般の理解が進んでいますが、日本ではまだテレビやマスコミでのエンターテイメント性が表に出てくることが多いのが現状です。

 チンパンジーを飼育している52の施設のうち、16以上のチンパンジーがいるのはたった4%にすぎず、11以上飼育している施設を含めてもそれはたった12%にしかなりません。5〜10が35%、2〜4が40%、そしてひとりのみを飼育している施設は13%になります。

 

 

 また、飼育個体数が多くても、実際には群れに入れずにほかのチンパンジーと隔離されているケースやもともと群れ飼育をしていない施設も存在します。
 野生での群れが20〜100というのに比較して、いかに飼育下での生活が野生のものとかけ離れているか、これだけでもよくわかります。

 日本でも国内繁殖が進み、飼育数的には飼育施設の許容量の限界に近づいています。繁殖制限を行っている施設もある状況です。しかし、次のような問題点をかかえています。

 

繁殖計画

 社団法人日本動物園水族館協会(通称:日動水協)は1988年に希少動物の種の保存を目的とした「種保存委員会」を理事会の補助機関として発足させました。チンパンジーも対象種として「種保存委員会」のもとチンパンジー種別調整者を中心に、日動水協加盟施設以外のチンパンジー飼育施設も含めた繁殖計画が立案されています。また、チンパンジー種別調整者を中心に毎年1回、全国のチンパンジーの血統登録の為の調査も実施されています。

 

「亜種」を配慮した繁殖計画

 チンパンジーの亜種は形態的には見分けることが難しく、1990年代になってミトコンドリアDNAを用いた母系についての分子系統分析の亜種判定が可能になるまで、亜種を意識せずに飼育してきました。2001年に全国的に亜種判定が実施された結果、国内の約三分の一が亜種間雑種であることがわかりました。約6割がニシチンパンジーでした。ヒガシチンパンジー、中央チンパンジーは少数しかいませんでした。

 亜種レベルの保存のためには、今後、「亜種」を配慮して、亜種間雑種を増やさない努力が必要です。各飼育施設が確実にバースコントロールできる(ピル、インプラント、パイプカットなど様々な方法がありますが)飼育管理体制で臨まないと実現できません。また、繁殖は制限していかないといけませんが、多数いる亜種間雑種の個体達の幸せな生活を保証していくことも大切です。

 

「単独」あるいは「ペア飼育」から「群れ飼育」への変化

 動物園ができた当初、動物園は動物種を羅列的に展示する形式だったので、オス・メスのペア飼育が主でした。野生のチンパンジーが「群れ」として社会生活をしていることがわかり、空間的に余裕があり資金的に都合のつく施設では、「群れ飼育」のできる展示施設へと変化しています。しかし、様々な都合により「群れ飼育」のできない施設が多いのが現状です。
 また、これまでチンパンジーの社会が正しく理解されていませんでした。本来「複雄複雌」の社会を形成し、メスが移籍する社会ですが、動物園では「単雄複雌」の社会を作り続け、結果的にオスが余ってしまい、行き場を失ってしまっています。

 

「遺伝的多様性」に配慮した繁殖計画

 野生では「群れ」として社会生活をしているチンパンジーは、従来の「ペア飼育」では繁殖が難しい場合が多く、結果的に「群れ飼育」の施設での繁殖個体が多くなりました。しかも、繁殖力の強い一部のオス・メスの子孫が増えたため、血縁占有度にかなりの偏りがでています。このまま進行すると血縁関係の近い個体群になってしまいます。

 日本の飼育下チンパンジーの「遺伝的多様性」を保つには、近親交配を避けるとともに、血縁占有度を均等に近づける努力(繁殖実績のない系統の個体が繁殖できる環境を作る、繁殖実績の豊富な個体は繁殖制限をする)が必要になっています。

 しかし、ひとくちに「繁殖実績のない系統の個体が繁殖できる環境を作る」といっても様々な問題があります。施設の部屋数や飼育空間など物理的な問題、また、人工哺育(ヒトの手で育てられる)で育てられた個体の場合、繁殖行動や育児行動を学習する機会が無かった為に、繁殖行動や育児行動ができない個体もいます。

 しかたのないことですが、飼育下チンパンジー集団の創設個体(アフリカ生まれの野生個体)は、高齢になりつつあり、まもなく繁殖能力が落ちてきます(1980年のワシントン条約発効よりチンパンジーの輸入が難しくなり、野生由来の個体はほとんど輸入されていません。今後もアフリカ生まれの野生由来個体が輸入される可能性はありません)。遺伝的多様性を保つための貴重な遺伝子をもつ個体が、全く子孫を残さずに高齢化していきます。緊急対策として、これからは、人工繁殖の技術も活用する必要があります。

 人工繁殖の技術とは、人工授精、受精卵移植、体外受精などです。日本では人工授精による繁殖は1982年に京都大学霊長類研究所が成功して以来、動物園においても実施されています。チンパンジーの人工授精技術はある程度確立されてきていると思われます。しかし、人工繁殖により繁殖した個体は育児放棄される場合も多く、人工哺育となり、そのままでは繁殖行動ができない個体に育つ可能性があるというジレンマもあります。人工繁殖後、その個体の発育段階に応じて社会性を学習する機会を与えていく教育プログラム、環境作りも必要です。また、生まれた個体の生活スペースの問題もあります。以上を考えると、生きた個体の繁殖計画(もちろん最優先課題ですが)だけを考えた種の保存計画では、各個体の福祉の問題まで考え合わせると、迅速な対策はなかなか困難です。

 

「環境エンリッチメント」に配慮した飼育

 チンパンジーの進化的背景、能力、社会についての一般的な認知が広まり、大型の動物園においては、群れ飼育に加え、より生き生きと生活できる施設を作ろうという気運も高まってきています。今後もさらに、飼育施設の担当者、管理者は、「野生でのチンパンジーの生活」に対する理解を深めて、飼育現場・展示に生かしていくことが大切です。

 しかし、日本には単独あるいはペア飼育の施設が多くあります(当然のことながら、群れ飼育できる新しい施設を作るには、相当の費用がかかります)。ペア展示を前提とした旧来型の展示施設においても、できる限りチンパンジー達が生き生きと生活をおくることができる工夫を考えていくことが大切となっています。飼育現場の担当者の熱意と創意工夫で、チンパンジーの環境をより良くすることができます。

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